1996年5月5日
ドイツの中心的都市であるベルリン市と、その周囲を囲むブランデンブルク州の合併構想の住民投票が行われ、反対多数により否決された。
【図-1】を見ていただいてわかる通り、ブランデンブルク州の中心に位置するベルリン市と、大阪府の中心に位置する大阪市は配置としては似ている。
そして広域行政における大阪府市の抱える問題も似ている所がある。では、否決されて約四半世紀を経た当地は今どうなっているか?
合併否決後、両地域の広域発展計画を行うベルリン・ブランデンブルク共同計画事務所や、鉄道・トラムやバスに至るまで両地域の公共交通輸送を取りまとめるベルリン・ブランデンブルク運輸連合が誕生している。現在もベルリン市とブランデンブルク州は個別の自治体だが、ブランデンブルク州を含め、「ベルリン都市圏」としてEU第一位の人口(617万人)※1の都市と認知されている。
ここまで読むと「では大阪も都構想などをせず、ベルリン市=ブランデンブルク州のように連携をすれば問題ないのでは?」と思われるかもしれない。
しかし、逆に大阪都構想の必要性がここに隠されている。
ドイツ第一の都市であるベルリンに訪れる多くの労働者は周辺都市市民。中でも周囲を囲むブランデンブルク州の労働者が多く「中心都市・周辺地域問題」が発生していた。【図-2】
ポツダム大学のフランツケ教授によれば、「同じ都市圏域に属しているにもかかわらず、その周辺地域の自治体は政治的には自立性を保持しているため、中心都市がこれをコントロールすることはできない。(中略)周辺自治体の多くの住民は、中心都市への通勤者として多くのインフラ・サービスを享受するにもかかわらず、本来、その経費の財源に充てられるべき税金は、賃金税と所得税の居住地原則によって周辺地域の自治体の税収となるため、一体であるべき都市圏域が政治的、計画的そして財政的に分裂することとなる。」※2
これは大阪市と周辺都市にも生じている問題である。【図-3】
大阪市民の税金で整備された大阪市内のインフラや施設を周辺都市の住民が享受する。その恩恵を受けるのは周辺都市である大阪府下の他市民が最も多いが、その住民達が税金を納めるのは大阪市(中心都市)ではなく自身が居住する地域(周辺都市)となる。
他方この構想はドイツの国家成長戦略の側面もあり、州のスリム化と連動した連邦国家のスリム化を行う目的もあった。大阪の場合は一元化で意思決定のスリム化をはかり、国全体で見ると東京一極集中解消の為の二極形成という狙いもあり、国家成長戦略という点に於いては重なる部分がある。
住民投票結果
●ベルリン 賛成53.4% 反対45.7%
●ブランデンブルク州 賛成36.3% 反対63% ※3
もちろん理由は様々あり単純なものではないが、代表的なものとしては、住民への周知がなされていなかった事と、東西冷戦解消間も無い時期であったことが有力である。
住民への周知不足は与党の楽観的な姿勢に起因している。また、時期については冷戦終了後6年しか経ていない中、統一ドイツの新制度にも馴染まないうちからまた新たな制度へ移行することへの反発と、旧東ドイツ側市民(社会主義)の西側市民(資本主義)への懐疑。(冷戦中、ベルリンは市内中心部のベルリンの壁により東西に分断。ブランデンブルクは東ドイツに属していた。)
これは東西分裂していたベルリン市内の投票結果を見ても明らかである。【図-4】
まず、大阪都構想の代表的な目的は
対してベルリンは
ベルリンは「市」となっているが実際は「都市州」であり合併相手であるブランデンブルク州とは同格。従って二元行政・二重行政が生じない為広域連携が有効であった。(ランクでいうと大阪府と京都府が合併するようなもの)
本コラムに紛らわしいタイトルをつけて申し訳ないが、実際は都構想とは性質の違う統合構想であった。
そして、現在の広域連携部署がある事により、例えば大阪府と大阪市がそれぞれが広域政策権限を持つ以前の大阪府市の二元行政体制ではない。【図-5】
2001年、それまで23あったベルリン市内の行政区は区域改革により12区に再編。各行政区には公選区長と区議会がそれぞれ設置されており、大阪都構想の目的の1つであるとされている「ニアイズベター」が果たされている。
さらなる発展は必要である為、都市圏拡大とブランデンブルク州との中心都市・周辺地域問題解消は必要。ベルリンはこれより遡る1920年10月1日、行政区新設法により市域拡張を行い現在の市域となり「大ベルリン」【図-6】となった。この時の人口は380万人。
約7倍の面積となった現ベルリンの現在の人口は約360万人で、人口密度は4,087人/k㎡と、大阪市の人口密度12,180人/k㎡の約3分の1で、大阪府の人口密度4,633人/k㎡に近い。【図-7】
人口密度はそれほど高くは無いのだが、近年ベルリン市内の家賃は海外投資家などの進出もあり2008年に比べ2倍に上がっている。それを受けて異例の家賃凍結法案を本年1月に制定した程だ。※4
上がり続けるベルリンの家賃の影響もあり、ブランデンブルク州ベルリン近郊地域へのベルリン市民の流出は増。※5中心都市・周辺地域問題はこれから拍車がかかるのではないだろうか。
という事で上記ABC3点のうち、ベルリンでは「C.市域拡大/中心都市・周辺地域問題解決」のみが問題であり、大阪都構想で解決課題となっているその他ABの2点が既にクリアになっている。その為ベルリン=ブランデンブルクはお互いの利益と地域の発展に集中し、広域成長連携に邁進できる環境にあると言える。
しかし、広域連携の一つであるベルリン・ブランデンブルク運輸連合でも収支面では非常に厳しく、収入のうち45%をベルリン市・ブランデンブルク州・各市からの拠出で賄っている。※6
これは、人口密度が高い首都ベルリンを事業エリアに持つ一方で,人口密度が極めて低いブランデンブルク州郊外の地域も数多く事業エリアに抱えていること大きな理由の一つであり。ベルリンがブランデンブルクを支えているような構図になっている。
対等であるはずの連携でもこのように連携先の規模に大きく差があると問題も生じてしまう事を付け加えさせていただく。
現在の大阪は行政機関の形でいうと1996年時点のベルリン市の状態にすらなれていない状態である。
しかし都構想が実現するとベルリン市の状態に追いつくどころか、市域拡大と中心都市・周辺地域問題解決ができ、三段飛ばしでベルリンを追い越すような事が起こるのではないだろうか。【図-8】
とはいえ物事に完璧はない(筆者も本稿を入稿後何度も加筆修正をお願いしている。おおさか未来ラボのスタッフ様申し訳ありません。)ので、都構想が実現すれば全ての問題が解決されるかというとそんな事はない。
3段飛ばしというのも、あくまで大阪が抱えている問題点に対してベルリンの体制がどうか?という事であり、行政機関の形が変わったから「大阪がドイツの首都ベルリンに勝った」という単純な話でも勿論無い。
しかし、より公正な分配をする為の、より合理的な仕組みづくりによって、街に、国に、もちろん市民により活力を生む。この「より良くする」という前進への挑戦を筆者は支持する。
(文責:清水亮太(@3ryota3))