大阪都構想はインセンティブの強化

大阪都構想はインセンティブの強化

「住民サービスが未来永劫変わらない」ということはあり得ません。
現在、11月1日に行われる大阪都構想の住民投票に向けて、賛成派と反対派の間で舌戦が繰り広げられていますが、反対派は大阪都構想が実現すると住民サービスが低下するとしきりに主張しています。
メディアも都構想後の住民サービスがどうなるかに焦点を当てている向きがあります。
住民の皆さまからすれば、都構想で住民サービスがどうなるか不安視されるお気持ちは十分に理解しています。
しかし大阪府市の今のままであっても、都構想が実現したとしても、住民サービスが未来永劫同じなんてことはあり得ませんし、その時代その時代のニーズに合わせて見直し変えていかないと住民サービスの向上には繋がりません。
ですので、都構想によって「住民サービスが上がる」「住民サービスが下がる」という論争は不毛な議論と考えています。
「住民サービスは変わって当たり前。その大前提のもと、大阪府市の今の体制と都構想とでは、どちらが大阪全体の成長と住民のニーズをより反映させやすいか」という議論こそが本質的な部分であり、必要なのではないかと考えます。

そもそも大阪都構想と住民サービスには直接関係がない

特別区移行時においては、大阪市で行っている住民に身近なサービスである基礎自治事務はそのまま特別区に引き継がれ、その事務を維持出来るだけの財源も確保されていますので、特別区になっても住民サービスは維持されます。
逆に言えば、もし特別区が大阪市の基礎自治業務をそのまま引き継げないとしたら権限・財源の面で特別区には足りない部分があるということですが、大阪市の住民サービスを特別区がそのまま引き継げるということは、基礎自治業務をする上で特別区に足りない権限・財源はないということです。
ですので、実は権限の面からも財源の面からも大阪都構想が住民サービスに影響するということは無いのです。
しかし住民サービスを向上させるために財源が必要なのは当たり前の話しで、財源に関しては広域一元化をして大阪全体の成長を図り確保していくというのが都構想なのですが、広域行政におけるインセンティブの強化に関しては後述します。
住民サービスに影響を与えるのは、財源だけではなく首長の政策や議会での議決によって左右されるものであり、特に影響を与えるのが首長の政策となります。
端的に言うと、いくら財源や権限があっても住民サービスに目を向けない首長や議会では住民サービスが上がることはなく、それがかつての大阪市でした。
そのことは大阪維新の会誕生前と大阪維新の会がこの10年行ってきた政治を比較すれば、どちらが大阪全体の成長と住民サービスの向上に力を入れてきたかは容易に理解してもらえると思います。

住民サービス

これらの政策は大阪市が政令市だから出来たわけではありません。
大阪維新の会がこれまでの大阪市では目を向けられなかった住民サービスに目を向けて力を入れてきたから実現した住民サービスです。
このような住民サービスの向上と大阪の成長を今後も続けるために、大阪都構想で広域行政の面でも基礎自治行政の面でも、制度としてインセンティブの強化を図るというわけです。
インセンティブの強化と言うとわかりにくいかもしれませんが、行政がどの方向を向いて仕事をするか制度によって決めてしまおうということです。
それによって投票する側の有権者にとっても争点がわかりやすくシンプルになります。
ではなぜ大阪都構想で「インセンティブの強化」が図られるのかということを簡単にご説明します。

基礎自治行政におけるインセンティブの強化

まず前提として押さえておきたいのは大阪市と大阪都構想で設置される特別区の違いです。
大阪市は政令指定都市ですので、広域行政と基礎自治行政の両方の権限を持っている基礎自治体です。
一方、大阪都構想で設置される特別区は、都道府県や政令市の一部の権限も持つ中核市並の住民サービスに特化した基礎自治体です。
財源さえあれば、確かに大阪市のほうがやれることは多いように思えますし、実際にそう主張する反対派の方も多いです。
しかし前述した通り、大阪市が政令市だからやれることが多い=住民サービスの向上とは必ずしもなりません。
つまり権限が多くやれることが多いがために、住民サービスの向上をやってもいいし、やらなくてもいいというのが大阪市ということです。
有権者としては大阪維新の会のように住民サービスの向上を目指す大阪市長とそれに賛成する大阪市会議員を多く選ばない限り、住民サービスの向上は望めません。
そんな体制では住民サービスはあまりにも不安定なものになってしまいます。
一方、特別区の場合は、持てる権限を住民に身近なものに限定するため、特別区長や特別区議は住民のほうを向かざるを得ません。
大阪市と比べて人口や地域が4つに分けられることで、選挙の際の争点は地域課題や住民サービスの向上に絞られ、民意も反映されやすくなります。
さらに有権者は自分の住んでいる特別区と同規模の他の特別区の住民サービスとを比較して、自分が住む特別区長と特別区議を評価し投票することになるので、特別区長と特別区議は緊張感を持って政治に取り組むことになり、その4つの特別区で競い合うためにさらなる政治的緊張を生みます。
つまり、住民のほうを向いた政治を行うインセンティブは、特別区のほうが格段に強化されるということになります。

住民サービス2

広域行政におけるインセンティブの強化

前述したように政令市である大阪市は広域行政の権限も持っていますが、大阪市は大阪府と協力して広域行政をしてもいいし、しなくてもいいんです。
また大阪府も同様に大阪市と協力してもいいし、しなくてもいいんです。
その結果、大阪市は大阪市のことしか考えない広域行政を展開し、大阪府は大阪市を除いた府域で広域行政を展開するという極めて非効率な状態になってしまいました。
この府と大阪市の制度的な関係性こそが二元行政(二重行政)を生み出してきた根幹であり、これまでの長年の府市合わせの歴史を見る限り解消出来なかった問題です。
また、現在協力しているから都構想にしなくてもいいと言う方がいますが、今のままでは「府と協力してもいいし、しなくてもいい」「市と協力してもいいし、しなくてもいい」という状態が残ったままとなってしまいます。
そのような不安定な状態を根本的に解消しようというのが、大阪都構想による広域一元化という制度変更です。
都構想が実現し大阪府に広域一元化することにより、これまで府が投資出来なかった都心4区(大阪市域)へ投資するインセンティブが働きます。
府内にぶつ切りで投資するよりも、都心4区に投資してその成長を大阪府域全体に波及させていくのが最も効率が良く合理的で、これまで大阪市域しか見ていなかった目線から府域全体を見る目線に変わることで大阪市域で止まっていたヒト・モノ・カネを府域全体に循環させていくことに繋がります。
とはいえ、そのように考えない知事が選ばれた場合はどうなるのかという疑問は当然に湧くと思います。
ここに東京の都区制度とは違う大阪都構想ならではのうまい仕組みが組み込まれています。
東京都では財政調整財源の中から府の会計に入るお金は一般会計に組み込まれ、東京都はそのお金を東京都全域に自由に使えます。
一方、大阪都構想ではこのお金を特別会計として使い途を大阪市域の発展に限定し、都区協議会でその使い途が合理的かどうかをオープンにすることで、より市域の発展のために使わないといけないというインセンティブが働きます。
つまり知事は大阪市域を無視して広域行政を行うことは出来ず、また大阪市域選出の府議は今までより格段に住民の声を府に届ける役割を果たさないといけなくなります。
また有権者の側も大阪市長と協力してくれる知事かどうかを気にすること無く「大阪全体の成長」を一番実現してくれるのは誰かという争点で知事を選ぶことになり、それが都心4区をはじめとした府内自治体全体の税収アップとなり住民サービス向上に繋がります。

最後に

先述した通り、大阪都構想によって直接的に住民サービスが左右されることはありません。
しかし大阪市でも特別区でも未来永劫住民サービスが変わらないということはありません。
その時に広域行政と基礎自治行政が一体どの方向を向いているかということが重要になります。
大阪都構想という大阪全体の成長を考える府(都)と住民のニーズに応える特別区という制度にしておくほうがいいのか。
それとも、住民サービスの向上をしてもしなくてもいい、大阪府(市)と協力してもしなくてもいいという不安定な今の大阪府と大阪市の体制のままでいいのか。
住民投票での賛否は、大阪市民の皆さんがどちらの大阪の形に魅力を感じるか、どちらに未来の可能性を感じるかということになると思います。
まずは過去の大阪を振り返ってみて、大阪の問題を未来に先送りするのかどうかご判断頂けたらと思います。
11月1日の住民投票で賛成多数で可決となり、2025年1月から都構想がスタートすることを願っています。

(文責 向日葵@尼崎)