二重行政の足跡

過去の大阪を振り返る

賛否が分かれる大阪都構想(以下「都構想」)。それは廃藩置県や平成の大合併と同じ、時代に合わせた自治体の再編であり、少なくとも提案者は大阪を良くするためにこれを設計している
しかしこの都構想、そう簡単には説明出来ないほど、賛成派も反対派も熱量が凄まじい。大規模な政令指定都市である事など、その権限や財源の大きさ故に現状維持を声高に訴える声もある。
しかし、その恩恵を手放しで受け続けられているのなら統治機構改革など提案される筈もなく、それは大阪に解決すべき問題があるからに他ならない。都構想の賛否を問う上流に、まずこれを認めるか否かという問題がある。
このコラムでは、これらに該当すると思われる「二重行政」「負の遺産」「その影響を受けたもの」の中で、私がこれまでに目に止めて来た実例をかいつまんで挙げてみる。

湊町再開発

JR大和路線と大阪環状線の分岐点である今宮駅。かつては環状線側に駅はなく、大和路線だけが地平に敷かれた線路でこの駅に停まりながらJR難波を目指していた。
この区間の連続立体交差化が行われたのは1996年。OCATの誕生と共に、環状線にも今宮駅が出来てこの駅は高架化され、すぐ隣のJR難波駅は地下化された。
このジェットコースターのような立体交差化、このままで終わるのであれば非常に意味が薄い。数カ所の踏切が解消されたが、大和路線だけでは空かずの踏切と言われるほど高頻度な運転が行われていない。しかも高架から地下へ向かうので、数カ所は大型車がくぐれない中途半端な立体交差になってしまった。これだけではかけたお金ほどの恩恵があるとも思えない。
地下化は高架化よりお金がかかる。JR難波まで全て高架でも良さそうなものである。にも関わらず地下にしたのはなにわ筋線の実現を見据えていたからだ。
JR難波駅は4番線まであるが、明らかに終点ではなく途中駅の作りだ。ここまでやっておいて、大阪府市はつい数年前までなにわ筋線を作る作らないでもめていたのである。

1996年に高架化された今宮駅

1996年に高架化された今宮駅

今宮駅とJR難波駅の間の立体交差部

今宮駅とJR難波駅の間の立体交差部

1996年に地下化されたJR難波駅

1996年に地下化されたJR難波駅

また、このJR難波駅と一体的に作られたOCATは外観の立派さとは裏腹に、中に入れば難波界隈の喧噪から想像も出来ない寂しさを醸している。2003年に破綻し、公金を突っ込んで再生させた大阪市の負の遺産の一つだ。せめてここに新大阪と関空を結ぶ電車がガンガン走っていれば全く異なった展開が想像される。なにわ筋線にブレーキを踏んでいたのはどちらかと言えば大阪市だが、市民の税金で作った物をきちんと育てる気があったのだろうか。
大阪府はなにわ筋線を作る事に積極的だったが、何故進まなかったのかは以前のコラム「大阪都構想が必要な理由~鉄道事業に見る縮図~」に書かせて頂いた通りである。

JR難波付近の立体交差化と同時に完成し、2003年に破綻したOCAT

JR難波付近の立体交差化と同時に完成し、2003年に破綻したOCAT

阪神西大阪線(西九条付近)

続・大阪都構想が必要な理由~鉄道事業に見る縮図~」に書かせて頂いた現在の阪神なんば線は、1964~2009年までは阪神西大阪線として、阪神本線のバイパス線の位置付けで運行されてきた。路面電車を改良しながら高規格化されてきた阪神本線と異なり、最初からカーブが少なく高速運転が出来る設計だった。しかし西九条で足止めを食っていたので利用者は少なく、ローカル線として細々と運行されてきた。いつかは大阪市中心部へ向けてJRの高架線を越えるために、更にこんなに高い高架が作られていた。以後45年間その役割を成す事なく電車も乗客もこんなに高い所まで上らされていたのである。大阪府市による負の遺産には当たらないが、民間事業者が府市合わせに巻き込まれた事例であり、現在の京阪中之島線に近いものがある。
大阪は東京一極集中に最も手を貸している(全体の1割)と言われるほど企業流出が多かったが、電鉄会社は簡単に大阪を出て行く事が出来ない。他の民間企業も似たような扱いだったのではないかと想像してしまう。

阪神西九条駅付近の高架

阪神西九条駅付近の高架

大阪モノレールと長堀鶴見緑地線

大阪モノレールは大阪の鉄道ネットワークで横の繋がりを持たせる「メガループ」という役割である事は以前のコラムに書かせて頂いた通りである。今なお延伸整備中で、事業主体は大阪府だ。2001年度に黒字化したが運賃が高く、今後の整備費用ものしかかる。
これに対し長堀鶴見緑地線は、1990年に開催された「国際花と緑の博覧会」のアクセス路線として当時の大阪市交通局の地下鉄路線として整備された物である。2017年現在の営業係数は153.2と今里筋線に次ぐ赤字路線だ。
下の地図では紫色の線が前者、深緑色の線が後者に当たる。

大阪モノレールと長堀鶴見緑地線

太線部分は共に1997年に、ネットワークとして更に充実させるべく延伸が行われた部分である。
この2者同士も、明らかに接続してナンボの関係なのだが、同じ門真を名乗る駅同士、あと3.5kmの所で繋がらなかった。
延伸開通が同じ年度だから、計画段階ではお互いその内容を知り得なかったのだろう。途中で知った所で当時の大阪府市が歩み寄ったとも思えない。このケースでは将来的に大阪全体の外環状線を目指していたモノレールがもう一踏ん張りすべきだったと考えるが、財政的にここで力尽きたのかと思えば、翌1998年に彩都線といういささか不可解な盲腸線を万博記念公園駅から分岐させた。彩都線は20年以上経った今もガラガラだ。そして大阪府は本当に力尽き、モノレールの環状部はこの門真市駅までが最終延伸区間となったまま長い月日が流れた。既に瓜生堂延伸の構想はあったものの太田府政下ではまったく再開の気配はなく、2013年にこれを動かしたのは松井知事だ。
いずれにせよこれらの延伸事業は、府市一体で行われていれば両者の接続はスムーズに行われ、共にもう少し健全な経営と共に府民市民の便に資する交通インフラが提供されていたと想像する。

南港ベイエリア地区

特にWTC(現・大阪府咲洲庁舎)は都構想の説明で何度もお目にかかる府市合わせの横綱である。
その高さ256m。その1年半前に竣工した横浜ランドマークタワー(296m)に続き、243mの東京都庁や240mのサンシャイン60を抜いて当時日本で二番目の超高層ビルとなった。更に1年半後に竣工した、同じく256mの予定だった大阪府によるりんくうゲートタワービルが無理矢理アンテナを追加して10cm上回り、府市のバトルにだけは勝利した事が語り草になっている。
ちなみにWTCは最初は252mになる計画だった。りんくうゲートタワービルの概要が明らかになって256mに変更されたのはバブル崩壊後である。そしてこれら大阪の二例は双方とも、国内の超高層ビルで例を見ない破綻事業となった。

2010年頃のWTC(現・大阪府咲洲庁舎)

2010年頃のWTC(現・大阪府咲洲庁舎)

そもそもビルは何故高く作るのだろう。それは都市の密集地において狭い土地を有効に使う為だ。だから超高層ビルの周囲に余った土地など殆どない筈である。しかしWTCの周囲はご覧の有り様である。
周りに比べる物が無いので日本で二番目に高いビルと言われてもピンと来ない。人が来ないのでそれが広く知られる事もない。とても違和感のある風景だった。

WTC(現・大阪府咲洲庁舎)の周りは空き地が多い

WTC(現・大阪府咲洲庁舎)の周りは空き地が多い

1990年まで高さ日本一だったサンシャイン60(240m)は成熟した街のランドマーク

1990年まで高さ日本一だったサンシャイン60(240m)は成熟した街のランドマーク

日本で200m超の超高層ビル時代の幕開けを飾ったのは東京の新宿、続いて池袋であり、それぞれ大きな鉄道駅の近くに作られた。密集地に更に人を呼び込むので当然の考え方である。

日本一の乗降客数を誇る新宿駅(353万人)と超高層ビル群

日本一の乗降客数を誇る新宿駅(353万人)と超高層ビル群

しかしこれらより高いWTCの最寄り駅はニュートラムのトレードセンター前駅。スピードも遅く、1便で運べる乗客はフル規格の鉄道車両1両分(166名)でしかない。これで大阪市はこの巨大プロジェクトをまともに成功させる気があったのかと不思議な気持ちになる。
作るのであれば、せめて地下鉄中央線の終点駅をその直下に作るべきだったと思う。WTCは2015年の大阪府知事選で松井一郎候補の対抗馬だった栗原貴子氏に「辺鄙な場所」と言わせてしまったが、私は本町まで15分のコスモスクエア駅をなんであんなに離れた、駅前開発も出来ない海辺に作ったのだろうと思っていたら、その先にはもう一つの負の遺産である「海の時空館」があった。

WTCとトレードセンター前駅、コスモスクエア駅、海の時空館の位置関係

WTCとトレードセンター前駅、コスモスクエア駅、海の時空館の位置関係

超高層ビルを高く作ればその街のシンボルになり得るかもしれないが、それは中身を詰めてナンボである。決して安い買い物ではないのだ。
近鉄が近年になって、上にご紹介した全てのビルを凌ぐ日本一高い超高層ビル「あべのハルカス」を建てた。WTCの総事業費は約1200億円、あべのハルカスのそれは約1300億円とほとんど変わらない。しかしそのインパクトや実績が全く異なるのは明白である。この地に日本一の高さとは驚いたが、懸命なテナント誘致活動の末に開業前までにテナント入居者の70%を確保している。鉄道利用者より客単価が高い展望ロビーには開業から暫くはビルの外まで長蛇の列が出来た。これぐらいで初めて高さを売りにしたシンボルと胸を張って言えるだろう。少なくとも役所が見栄を張る為に多額の税金を使って「バブルの失敗」で済ませて良いような話とは思えない。
もう一つ忘れてはならないのが、破綻弁償金635億円で和解したORC200だ。これを加えると大阪府内で3つ、超高層ビルの失敗を抱えている事になる。ORC200の和解金は50年ローン、橋下市長時代に生まれた赤子が50歳になるまで市民の負担は続く。

夢舞大橋と夢咲トンネル

ご存知、万博とIRの開業予定地である夢洲に既に備えられた交通インフラである
北港テクノポートという事業に失敗し、代替活用案として手を上げた2008年オリンピックの招致にも失敗し、しかしそのオリンピックが終わった2009年まで工事が続けられた。大阪市民の税金がたっぷりと使われた贅沢な無人島だ。

夢洲

まずは夢舞大橋、635億円也。この橋、実は水に浮いている。大型船がここを通れるよう開閉可能にするためで、舞洲側(矢印の位置)に回転軸を備える。従って、橋全体が巨大な可動機構の塊となっており、間近で見ると圧倒される物がある。まさに夢の架け橋のように見えてしまうが、渡った先はペンペン草を20年育む寂しい場所だ。

上空から見た夢舞大橋

上空から見た夢舞大橋

夢舞大橋の可動部分

夢舞大橋の可動部分

夢舞大橋夢洲側支持部

夢舞大橋夢洲側支持部

夢舞大橋と現在の夢洲

夢舞大橋と現在の夢洲

咲洲側は更に贅沢な海底トンネルだ。道路部分は開通済みだが、地下鉄部分も8割方完成している。この為に注ぎ込まれた税金は約1500億円(道路部1060億円、地下鉄部440億円)。

上空から見た夢咲トンネル

上空から見た夢咲トンネル

夢咲トンネル入り口

夢咲トンネル入り口

ここに民間の活力を呼び込んで再生させる万博やIRはまさに夢の起死回生策と思う。IR業者は地下鉄完成までの一部負担も含めて積極的に名乗りを挙げており、これに呼応して民営化間もない大阪メトロは夢洲駅前の大胆な開発案を提案し、バブル期の北港テクノポート計画には全く食指を動かさなかった京阪や近鉄が釣られるように乗り入れの検討を始めた。ここに税金を全く使わない訳では無いが、そもそもIR誘致は観光振興・雇用創出・財政改善を狙った物であり、かけたお金の回収も当然見込んでいる。
都構想反対派は万博・IRも無駄遣いだと言うが、そんな彼らは今里筋線は赤字でも作れという二枚舌っぷりだ。今までに作ってしまったこんな負の遺産をどうするのか、せめて代案が欲しいものである。そのまま放置という選択肢は無いと思う。

むすび

大阪市の権限と財源が大きいのは確かだが、それは誰のためだったのだろう。上に挙げた例は一部だが、これらは大阪市民が望んだ物なのだろうか。関わった人達は「バブルの失敗」を免罪符の如く主張するが、本来は地域の生活と向き合うべき基礎自治体である。それこそバブルの恩恵で、ヘチマとゴーヤで凌いだ学校の空調や給食の導入くらい出来なかったのだろうか。府市の協力で早期に実現すべきだったなにわ筋線や阪神高速淀川左岸線も進められ、それは今頃成長のエンジンとなっていた筈だ。
大阪市は人口も270万人と、26の市町村を持つ京都府より多い。選挙で選ぶ事の出来る基礎自治体の長はそれぞれ1人、26人である。政令市の権限が大きいと言っても都道府県のそれを少し引継いでいるだけだが、前者やそれに近しい人達は基礎自治体としてはとてつもなく大きな財源もコントロールする事になる。一方、市民一人一人にとってはまるで市町村すら無い都道府県のようだ。
広域自治体の大きさ、基礎自治体の小ささには理由がある。都構想の狙いはこの適正化も含まれており、政治の受益範囲に見合った物となるので、それぞれの首長も正しく選ばれやすくなる。責任の擦り合いにもなりそうな重複部分も解消され、有権者にとっても権限や財源が監視しやすくなるという事だ。
「特別区は村以下」という表現がお好きな方もおられるようだが、一部の人達にとっては本当に村以下になるのかも知れない。

(文責 午後の紅茶)